相続法

相続法改正のまとめ

2020.11.24 弁護士 山内 亘

約40年ぶりに相続法が改正され、2019年から2020年にかけて段階的に施行(効力が発生)されました。

これで改正された相続法は一通り施行されたことになりますので、ここでは上記制度について概要をお伝えしたいと思います。各制度の詳細(実務上のメリット・デメリット)はまた別途記事にする予定です。

自筆証書遺言の方式を緩和する方策

自書(手書き)によらない財産目録の作成

これまで自筆証書遺言は、添付する目録も含めて全文を自書(手書き)して作成する必要がありました。例えば財産目録に不動産を記載する場合には、基本的には登記簿に記載されている情報をそのまま書き写さなければならず、かなりの手間がかかりました。

しかし法改正によって、上記のような財産目録についてはパソコンで作成することが認められ、さらには登記簿(登記事項証明書)自体を添付したり、預金の場合は預金通帳の写しを添付することも認められるようになりました。

もっとも、自書でない記載があるすべてのページに署名押印することが必要です。

遺産分割前の預貯金の払戻し

被相続人名義の預貯金が一部払戻し可能に

これまでは、遺産分割が終了するまでは、被相続人(亡くなった人)の預貯金の払戻しが相続人単独では原則できませんでした。

しかし、生活費や葬儀費用、相続債務の支払に充てるなどの資金需要がある場合でも払戻しができないという不都合があったため、法改正によって相続人単独でも一定額の払戻しが認められるようになりました。

具体的には、150万円を上限とし、預金額の3分の1に法定相続分を乗じた金額の払戻しが認められることとなりました。

例えば母と子供2人が相続人の場合、子供のうち一人(法定相続分は4分の1)が亡くなった父名義の普通預金1500万円から葬儀費用を引き出そうとする場合、下記のように125万円まで払戻しが認められます。

1500万円×1/3×1/4=125万円 125万円≦150万円

もちろん払戻しを受けた金額は、具体的な遺産分割協議時には、すでにその相続人が受け取っているものとして扱われることになります。

遺留分侵害額請求

金銭を請求する権利に

遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に最低限保証される遺産取得分をいいます。遺留分を主張する方法は、以前は「遺留分減殺請求」という制度でした。

「遺留分減殺請求」は、遺言などで遺留分への侵害があると、侵害された遺産そのものを取り戻す権利(物権的権利と言われています)とされていました。例えば、相続人のうちの一人が遺言で特定の不動産を相続し、それが他の相続人の遺留分を侵害するものであった場合、遺留分減殺請求を行うと、その不動産そのものを取り戻し、相続人間で共有関係となってしまうものでした。しかし、もめている相続人間で共有関係となることは、その解消のためにさらなる紛争が生じることが指摘されていました。

新しい「遺留分侵害額請求」は、あくまで金銭的請求となり、上記のように共有関係になることはありません。上記の事例の場合、不動産の時価を算定し、遺留分に相当する金銭を支払うよう請求することになります。

特別寄与料の新設

相続人でない親族が被相続人の介護をした場合に金銭請求が可能に

これまで、被相続人の療養看護に努めてきた相続人は、「寄与分」として、遺産分割の際にその分有利に算定されることがありました。しかし、相続人でない者が被相続人の療養看護をしても、相続人でない以上特段金銭的に優遇されることはありませんでした。例えば妻が、夫の父(義父)の介護をしていてその義父が亡くなったとしても、妻は相続人でなく他に相続人がいる以上は、特段相続財産からもらえることはありませんでした。

新設された「特別寄与料」では、上記のような、相続人以外の者が被相続人の療養看護等を行った場合、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭の支払を請求できることが明文化されました。特別寄与料の請求が認められる要件は、ⅰ被相続人の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族のうち、相続人でない者)であること、ⅱ被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をしたことです。

配偶者居住権の新設

配偶者による居住権確保が容易に

被相続人の配偶者は、被相続人と共に居住していた建物(自宅)に住み続けたいという意向を有している場合が当然多いです。しかし、不動産の評価額は通常高額なため、他の預貯金などの遺産があまりないような場合には、遺産分割によって配偶者が建物を取得することができず、あるいは生活に必要な建物以外の十分な預貯金を取得することができないおそれがあります。

そのため、配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に住んでいた場合に、終身または一定期間、その建物を無償で使用することができる権利(配偶者居住権)を創設しました。

配偶者居住権では、建物についての権利を「負担付き所有権」と「配偶者居住権」に分け、配偶者が「配偶者居住権」を取得し、配偶者以外の相続人が「負担付きの所有権」を取得することができるようにしたものです。配偶者居住権は、自宅に住み続けることができる権利ですが、完全な所有権とは異なり、人に売ったり貸したりすることができない分、評価額を低く抑えることができます。そのため、配偶者はこれまで居住していた自宅に住み続けながら、預貯金など他の遺産もこれまでより多く取得できるようになり、配偶者の生活の安定を図ることができるようになりました。

法務局における自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度

自筆証書遺言の紛失等のリスクが軽減

これまで自筆証書遺言は、自宅で保管されることが多く、紛失したり、他人に隠されたり書き換えられてしまう危険性がありました。

こうした問題を防止し、自筆証書遺言をより利用しやすくするため、法務局で自筆証書遺言を保管する制度が創設されました。

この自筆証書遺言保管制度では、法務局(遺言書保管所)で自筆証書遺言に係る遺言書を預かり、保管の際は民法の定める自筆証書遺言の方式について外形的な確認(全文、日付及び氏名の自書、押印の有無等)を行い、相続開始後は、証明書の交付や遺言書の閲覧等に対応します。また、通常自筆証書遺言で必要とされる家庭裁判所の検認が不要となっています。

この記事を書いた人

弁護士 山内 亘

弁護士 山内 亘

みらい総合法律事務所パートナー弁護士(東京弁護士会所属)
著書「相続のことがマンガで3時間でわかる本」明日香出版
一般社団法人相続総合支援協会理事
相続のご相談は年間100件以上

電話