遺産分割の進め方
2020.12.07 弁護士 山内 亘
親が亡くなってしまったときに、「遺産をどのように相続人で分けたらよいのかわからない」、「特にもめているわけでもないけどどんな手続をしたらいいのかわからない」、そんな方もいると思います。ここでは一般的な遺産分割の進め方をざっとご説明します。
相続人と遺産の確認
遺産分割を行う前提として、相続人の確認と遺産の把握が必要です。
戸籍の取得
相続人をきちんと確認するには戸籍を取得して確認する必要があります。亡くなった父と前妻との間に子供がいたり、思わぬ相続人が出てくることがあります。後述する遺産分割協議では、相続人全員が関与する必要がありますので、相続人の調査はきちんと行わなければなりません。
相続人を調査する方法は、法定相続人が誰になるかにもよって変わってきますが、基本的には亡くなった方の戸籍謄本(除籍謄本)を出生までさかのぼって取得することが必要になります。相続人であれば取得可能ですので、亡くなった方の本籍地のある役所に問い合わせをして取得しましょう。本籍を移転しているような場合には、異なる役所に申請が必要になる場合もあります。この戸籍の取得自体、慣れない方には面倒な作業で、また戸籍を読み解く作業も必要になることもありますので、弁護士、税理士、司法書士、行政書士などの士業にお願いすることを考えてもよいかもしれません。預貯金などの払戻の際には、金融機関から相続人が確定できる戸籍の提出を求められますので、この作業は通常必要になります。
遺産の調査
そもそも分ける対象となる遺産を把握する必要があります。亡くなった方の財産である不動産、預貯金、株式、投資信託などを調べます。また、場合によっては負債の調査も必要になります。
亡くなった方と同居している相続人がいるような場合には、調査は比較的用意です(家にある通帳を調べるなどすればよい)が、そのような場合以外には、この調査は非常に重要になります。
不動産については、市区町村単位で固定資産税を課税するために作成している名寄帳(固定資産課税台帳)というものがありますので、これを役所に問い合わせして取得することにより、同じ市区町村内にある不動産については一覧で把握できます。また毎年、固定資産税納税通知書が届いているはずですので、これが見つかれば把握は容易です。
預貯金については、通帳が見当たらないものについては、各金融機関に問い合わせをするしかありません。亡くなった方が利用していそうな金融機関すべてに問い合わせをした方がよいでしょう。支店までは特定する必要はありません。同じ金融機関なら全ての支店を調べてくれます。
株式や投資信託も預貯金と同様証券会社へ問い合わせをすることになりますが、証券会社などから定期的に郵便物が届くことが多いので、そのような郵便物から把握できることもあります。
注意しなければならないのは、負債(借金)です。資産より負債が多ければ、そもそも相続をしない、相続放棄を検討する必要があるためです。特に自ら事業(会社経営)を行っていた方などは、会社の負債について連帯保証人となっているなど、その事業に関連する債務を負っている場合があります。負債の調査には、一般的には三つの信用情報機関(全国銀行個人信用情報センター、株式会社シー・アイ・シー、株式会社日本信用情報機構)に問い合わせをすることが有用です。また、負債についても金融機関、消費者金融などからの郵便物で判明することもありますので確認してみましょう
遺言書の有無の確認
遺言書があれば、そもそも遺産分割協議は原則不要
遺言書があるかないかの確認は、1の「相続人と遺産の確認」と並行して行う必要があります。なぜなら、そもそも遺言書が存在する場合には原則としてその遺言書の記載内容どおりに遺産は分配され、遺産分割協議が不要になるためです。
もっとも、遺言書に記載のない遺産があれば、それについては遺産分割協議が必要になり、また、遺言書の記載内容が一部の法定相続人の遺留分(民法が定めている法定相続人が最低限もらえる権利)を侵害しているような場合には、遺留分侵害額請求などがされることがありますので、遺言書に従って分けてそれで終わりとはならないこともあります。
遺言書の探し方
主な遺言書としては、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
自筆証書遺言の場合は自宅に保管されている場合が多いですが、最近創設された制度によって法務局に保管されていることもあり、その場合には、法務局に問い合わせをして遺言書を把握することができます。公正証書遺言の場合には、公証役場に問い合わせをしてその内容を把握することになります。
遺言書の内容に問題がないか確認
ただ、遺言書の存在自体は確認できたとしても、その内容について争いになる場合もあります。上記したように遺言書に記載のない遺産があればその遺産については別途遺産分割協議が必要になりますし、記載内容が不明瞭な場合もあり、遺言書が見つかった場合にはひとまず専門家に相談した方がよいでしょう。
遺産分割協議の進め方
法定相続分で分けるのが原則だが合意ができれば分け方は自由
遺言書もなく、相続人と遺産の把握も完了したらいよいよ具体的な遺産分割協議の始まりです。
民法は法定相続人の遺産の取得割合を法定相続分として定めていますので、この割合に従って分けるのが原則ですが、当事者が納得するのであればどのような分け方でも構いません。父が亡くなって、母の今後の生活のために、子供たちは遺産を取得せずに母に大部分を相続してもらうというような場合もあるでしょう。
最終的に相続人全員が納得してまとまった内容は、遺産分割協議書として書面に残します。遺産に不動産がある場合にはこの遺産分割協議書によって名義の移転登記がなされますし、後になってもめること(蒸し返し)を防ぐためです。
「遺産分割協議」という言い方をしますが、特段「協議」のために相続人全員が一堂に会する必要はありません。お互いがどのような分け方を希望するか手紙などのやりとりだけで遺産分割協議を行うことも多いです。また、前妻の子など、全く会ったことのない人が相続人となっていることもあるでしょう。居場所が分からない場合には戸籍を調べて戸籍の附票というもので住所の把握はできますが、そのような場合には、弁護士に依頼して手紙のやりとりをお願いした方がスムーズに話は進むかもしれません。
不動産がある場合が遺産分割協議でもめる可能性が高い
遺産が現金や預貯金だけあればもめることは少ないと思います。法定相続分でそのお金を分ければよいだけです。ただ不動産がある場合には、もめてしまう可能性が高くなります。これは、不動産の価値の正確な把握は困難で、また分けることが難しいためです。相続人全員がその不動産は不要と思っていれば売却してしまえばいいのでそれほど問題は生じませんが、自宅の不動産で住んでいる相続人もいるような場合には、簡単にそうはいきません。共有名義にするという方法もありますが、後々売却などが面倒になるので、これはあまりお勧めできません。遺産に不動産がある場合の分け方についてはまた別の記事でご説明します。
相続税への配慮が必要不可欠
遺産分割協議の際に気を付けないといけないのは相続税への配慮です。相続税は誰がどの遺産を取得したかによって金額が変わってくることがあり、特に妻(配偶者控除)や、同じ不動産に居住していた人(小規模宅地の特例)へ配慮することによって、大幅に相続税が変わってきます。相続税は相続人全員へ影響してきますので、もめていない場合でも、その分け方で問題がないか(もっと相続税が低くなる分け方がないか)必ず税理士に相談しましょう。
特別受益や寄与分がある場合は別途検討が必要
なお、生前に亡くなった方から相続人の一部が財産の贈与を受けていたり(特別受益)、亡くなった方の遺産の形成に寄与していた相続人がいる場合(寄与分)には、遺産分割協議の際に別途考慮が必要になりますが、こちらも少々複雑な話になりますのでまた別の記事でご説明します。
この記事を書いた人
弁護士 山内 亘
みらい総合法律事務所パートナー弁護士(東京弁護士会所属)
著書「相続のことがマンガで3時間でわかる本」明日香出版
一般社団法人相続総合支援協会理事
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