遺言

相続でもめない方法

2021.02.15 弁護士 山内 亘

親が亡くなった後に、その財産(遺産)をめぐって争いになるのは誰もが避けたいと思っていることでしょう。それでも相続のもめごとはなくなりません。これは亡くなった親や相続人が、なぜこのような争いが起こるのかを理解しておらず、またその対策をとっていないためです。相続でなぜもめるかを考え、相続でもめない方法についてご説明します。

1. なぜ争いになるのか

まずは、相続においてなぜ争いが発生するのか考えてみましょう。

財産の分け方は決まっていない

亡くなった人が遺言を書いていなかった場合、その亡くなった人の財産(相続財産)をどう分けるかは、法定相続人による遺産分割協議で決まります。

法定相続人の取り分自体は、法定相続分として法律によって決まっています(例えば父が亡くなり、その相続人が妻と子供2人だった場合、妻が2分の1、子供がそれぞれ4分の1)。しかし、これはあくまで相続財産からもらえる割合が決まっているだけで、相続財産のうち、誰がどの部分をもらえるかは決まっていません。そのため遺産分割協議として相続人間で話し合う必要があるのですが、当然話し合いですので、全員が納得しない限りまとまりません。法律が単に割合しか決めていない以上、そもそも相続というのは法定相続人間でもめてしまうのはやむを得ないものと捉えることもできるでしょう。一見、円満に解決しているように見えても、実際は法定相続人の誰かが少ない取り分でも我慢しているというようなことは非常に多く見られます。

分けられない(分けにくい)財産がある

遺産分割協議を行うにしても、相続財産が現金や預金だけというような場合には、問題はほとんど起きません。金銭は可分であり、簡単に法定相続分で数字上分けることができるからです。

問題は分けられない(分けにくい)財産です。その代表的な物が不動産(土地・建物)です。土地だけであれば物理的に分けるのと同じような効果がある分筆(例えば100㎡の土地を50㎡と50㎡の土地に分けて登記する)を行えば、相続人間で分けることはできます。しかし、通常は土地の上には建物もあり、そのような場合は分けるのは困難です。また分筆を行うことによって土地の価値が下がることもあり(50㎡の土地二つより100㎡の土地の方が利用価値が高いことはわかると思います)、経済的な損失にもなり得ます。

また、不動産には一つの所有権を複数の人で分ける(共有する)ことになる持ち分というものがあります。前述の妻と子供二人が相続人となる場合には、法定相続分で共有するとなると、妻が2分の1、子供がそれぞれ4分の1の持ち分を有することになります。しかし、このように共有状態にすることはその不動産の処分(売却)には共有者全員の同意が必要になるなどその後の手続が煩雑になり、一般的には問題を先送りにするだけであまりお勧めできません。

不動産を売却してお金に換えてしまい、そのお金を分けるという方法を取ることもありますが、そもそもその不動産に住んでいる相続人がいれば売ることは困難ですし、急いで売却しようとすれば、低い金額になってしまうおそれもあります。

また、不動産を相続人のうち特定の一人(その不動産に居住している人など)が相続して、他の相続人にはその不動産の価値と同じ金銭(代償金)を分配する(代償分割といいます)ということもよく行われますが、不動産の価値で争いになることも多く、また代償金が用意できなければ不可能です。

不動産の他には、株式も分けるのに困ることがあります。株式自体は数字上は可分なものに思えますが、亡くなった父が会社を経営していてその会社の株式を有していた場合には、株式の取得=会社経営権の取得ということに繋がりますので、単に法定相続分で分けてしまうと、後継ぎとなる相続人以外にも株が渡ってしまうことになりかねず、会社経営が困難となってしまう場合もあります。

このように考えると分けられない(分けにくい)財産が相続財産にある以上は、ある程度争いになるのは不可避とも考えられます。

亡くなった後のことを考えていない

実際には、これが一番の原因であることが多いのではないでしょうか。自分が亡くなった後のことは考えたくないから何もしないという方もいますが、多くの場合、全く考えていないわけではないけれども、自分が亡くなった後に自分の妻や子供たちがもめることは考えられないと思っているのでしょう。しかし、上記したようにそもそも財産の分け方は決まっておらず、それを相続人の話し合いに委ねる以上、それまで仲が良かった相続人間でももめてしまうというのはある程度はやむを得ないことでもあります。

また、そもそも自分が亡くなるということ自体を想定しておらず突然お亡くなりになってしまうケースも実は非常に多いです。不慮の事故だけでなく、心筋梗塞や脳梗塞などによる突然死が非常に多いのは周知の事実でしょう。この場合も結局亡くなった後のことを考えていなかったわけですから何ら対策をとっておらず相続人間でもめる可能性が高くなってしまいます。

2. 相続でもめない方法(遺言)

それではここからはどうしたら相続でもめないかを考えてみましょう。

遺言が一番の相続対策

何といっても遺言が一番のもめる相続を防ぐ方策です。遺言では、自身の財産について、誰に何を相続させるのか指定することができます。遺言があった場合には、相続人のうち一人でもその分け方がいいとなれば全員がその分け方に従わなければなりません。そのため一番問題となる遺産の分け方については基本的に争いが起きようがないのです。

遺留分には注意

遺言があったとしても、その遺言の内容が一定の相続人が最低限取得できる「遺留分」を侵害している場合には、侵害されている相続人は遺留分侵害額請求を行うことができ、これにより結局相続人間で争いとなってしまうことは非常に多いです。

以前は遺留分減殺請求と言っていましたが、現在は遺留分侵害額請求となり、単純な金銭債権(金銭の請求)となりましたので、以前よりは争うことも多少減りましたが、それでも結局遺留分の算定には相続財産の総額を検討しなければならず、不動産がある場合にはその算定が難しいなど問題は残ります。

遺留分に配慮しない遺言は、結局相続人間の争いを残してしまうことになりますので本当にその内容でよいのか注意が必要です。また、遺言者だけでなく、遺言作成のアドバイスを行う自称専門家(銀行などは特に注意)の中にはこの遺留分に関して十分な配慮をしていない人もいますので、専門家選びにも注意が必要です。

3. 相続でもめない方法(財産の遺し方)

財産の遺し方に少し注意をするだけで、相続の争いを防ぐことが可能です。

不動産がある場合には何らかの方法で現金も遺しておく

上記「1 なぜ争いになるのか」でも記載したように、不動産がある場合が一番争いになります。そのため、たとえ不動産を誰か一人に相続させることになったとしても、他の相続人も平等に財産を取得できるようにしておくことが重要です。代償分割の場合、不動産を相続する人が代償金を用意できればいいので、必ずしも相続財産からお金を用意する必要はなく、不動産を相続する人がもともと現金を用意できるようであればそれを考慮してもよいでしょう。また受取人が指定されている生命保険は、原則として遺産分割の対象となる相続財産とはならない(相続税の対象にはなりますが、一定の控除がありますので節税にも使えます。)ため、生命保険の活用によってある程度現金を用意することも可能です。節税のために現金を不動産にするという方法はよく聞きますが、それによって現金が減り遺産分割がやりにくくなり結局不動産を売却しなければならなくなったのでは意味がありません。

財産を遺さない

結局、相続財産があるから相続人間でもめると考えると、相続財産を遺さないということも選択肢に入ってきます。もちろん老後の生活があるので限度があり、生前に贈与する場合には贈与税など税金の検討が重要になります。

4. 最後に

相続でもめてしまうと、解決まで長期化することも多く、精神的にも多大な負担がかかります。相続対策を少し考えるだけでも、もめる要素は確実に減っていきます。弁護士や税理士などの専門家に早めに相談することが重要です。

この記事を書いた人

弁護士 山内 亘

弁護士 山内 亘

みらい総合法律事務所パートナー弁護士(東京弁護士会所属)
著書「相続のことがマンガで3時間でわかる本」明日香出版
一般社団法人相続総合支援協会理事
相続のご相談は年間100件以上

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